第4回 橋本昌 茨城県知事
自治省にて第一線の役職を歴任後、1993年に茨城県知事に選出され就任。日々さまざまな課題に取り組んでおられる橋本昌(はしもとまさる)茨城県知事は、2004年、(社)日本ソムリエ協会のソムリエ・ドヌールに就任されました。とても穏やかな雰囲気の橋本知事に、ワインとの思い出や、ワインの味わい方、茨城県とワインについて、お話を伺いました。
はじめておいしいと思ったワイン
1975年、福井県庁に出向中のこと。お正月に大勢の役所の方々と盛り上がり、かなり飲んで帰宅した時、酔った勢いで、以前プレゼントされ、大切に取ってあったフランスワインを開けてしまったそうです。それまで日本酒やビールなど、何でも飲んでいらした橋本さんですが、「ワインっておいしいもんだなぁ」と記憶に残っているのが、そのとき飲んだワインだそうです。
それが何というワインだったかは覚えていないそうですが、当時5,000円くらいのワインだということで、今から思うとかなり高いものだったのではないでしょうか。
山梨ワインとの思い出
1985年に山梨県に赴任した橋本さん。山梨には醸造試験場があります。当時、山梨のワインは“葡萄酒”と呼ばれ、白ワインを冷やさずに飲んでもまったく抵抗がないような時代であり、風習でした。
それを見た橋本さんは、「白ワインはキリリと冷やして飲まなくてはもったいない。ワインを美味しく楽しむ習慣を広げたい」と思い、ワインを美味しく楽しむことをまわりに勧めていったのだそうです。
山梨には当時、日本で初めてつくられた“貴腐ワイン”や“自重ワイン(じじゅうわいん)”がありました。自重ワインとは何でしょう?それは、農家でつくられる、機械圧搾する前の、ぶどう自身の重み(自重)で流れ出たフリーラン果汁で醸造したワインのことで、ぶどうのエキスいっぱいのそれはとても美味しく、一升瓶に入った自重ワインを、農家からもらっては楽しく飲んでいたそうです。
当時の山梨のワイナリーでは『サドヤ』が有名だったとのこと。サドヤのシャトー・ブリアンは当時、赤坂プリンスの『トリアノン』などのワイン・リストにも載っていたとか。
橋本知事流ワインの飲み方&楽しみ方
ワインに関連する人々と出会い、ワインを飲む機会がだんだん増えていった橋本さんですが、十数年間はずっと白ワインしか飲まなかったそうです。それがいつの間にか赤ワインを飲むようになり、現在は、食事のコースの時に白ワインを楽しむ以外は、赤ワインばかり飲んでいらっしゃるようです。ご自宅のセラーには、ボルドーの5大シャトーの赤ワインをはじめ、1945年のムートン・ロートシルトなど、なかなか手に入らないめずらしいワインをお持ちだそうです。1945年からラベルのデザインが毎年変わるムートン・ロートシルトですが、1945年のラベルは連合軍の勝利を記念したVサインのデザインです。でも橋本さんのムートン・ロートシルトはそのVサインが入っておらず、Vのデザインが入る前の珍しいものか、偽物なのかわからないそうですが、フランスから直接手に入れたものだそうです。橋本さんは還暦の時にこのワインを飲もうと、楽しみに取っておいているのだそうです。(橋本さんは1945年生まれ。このワインを開けるのはもうすぐですね)
「興に乗れば、結構飲みます(笑)」という橋本さん。たくさん飲んだときの一つの思い出で、同時にワインの失敗談でもあったお話を伺いました。橋本さんが北海道の『十勝ワイン』の醸造所を訪ねた時のこと。ドイツのシャトーそっくりの『池田ブドウ・ぶどう酒研究所』には、ブランデー化した十勝ワインなど、さまざまな十勝ワインがありました。研究所の方々が橋本さんに「自慢のワインなのでぜひ飲んでみてください」と次々に出して下さるので、3時間くらいずっと飲み続けることになり、帰りの電車の中では頭痛に悩まされたそうです。
そんな橋本さんに、橋本流ワインの飲み方を教えていただきました。
「ワインは飲み始めて十年間は“バカ飲み”をおすすめします。そうすると、きっと少しずつ、美味しいものとそうではないものが、なんとなく分かり始めるでしょう。私もバカ飲みをしてきました。十年もすればだいたい覚えるでしょうが、あまり少ししか飲まないと、ワインの良さが分からないかもしれません。これからワインを始めようとする人には、最初はフランス以外のワインから入ることを勧めます。できるだけ3,000円くらいのワインから始めるといいのではないでしょうか。そのクラスのものであれば、それぞれの国の最高級のものであり、フランス・ワインなら7,000円か8,000円くらいのものに相当する筈です。そして、最後にフランスのワインに挑戦してみてください。最高級のものを飲んでみるのもいいですね。」
美味しいとしっくりくるワインとそうでないワインがあるという橋本さん。しっかり管理もされていて、悪い状態にはなっていないけれど、「もっと飲みたい」というワインにはなかなか出会うことがないそうです。
最近では、高円宮妃殿下と食事をご一緒させていただいた時、橋本さんのご自宅から持っていったシャトー・マルゴー(85年あたりだったのではないか・・・とのこと)を開けたのだそうです。妃殿下は翌朝、「夕べのワインはおいしかったですね」と言ってくださったとのことで、大いに面目をほどこしたそうですが、その後もう一度妃殿下とワインを飲まれる機会がありましたが、その時はこのマルゴーほど美味しくはなかったそうです。
橋本さんのワインの楽しみ方は、食事とともに楽しむのもワインだけで楽しむのも良しとしますが、大勢の人と飲むのが一番面白いのだそうです。ワインだけでなく、日本酒を楽しむこともありますが、ほとんど多くの人と一緒に飲むとのこと。
茨城県のお食事とワインとのマリアージュについて訊ねました。
「常陸牛の牛刺とワイン。これは赤ワインでも白ワインでも合います。奥久慈軍鶏(おくくじしゃも)と赤ワインもおいしいですよ。奥久慈軍鶏は日本で一番おいしい軍鶏だと思います。それから蛤(はまぐり)。日本の蛤の5割は茨城県で採れます。これをフライパンに入れ、みりんと醤油をたらして熱し、白ワインでいただきます。夏には岩牡蠣。茨城の牡蠣はこってりしていて、レモンをシュッとかけて白ワインといただきます。東京だったら数千円はするでしょうが、茨城なら1,000~2,000円くらいで楽しめますよ。女性だったらが最高に喜んでくれるのではないでしょうか。」
茨城県のワインについてはどうでしょう?
「牛久ワインを造っている『CHATEAU D. KAMIYA(シャトー・カミヤ)』は、日本で最初のシャトーです。4月の上旬、このシャトーで桜を見ながら楽しむバーベキューは最高です。地ビールもあります。東京からもたくさんお客様が訪れますよ。」
今年の春は、私もぜひ茨城県でワイン片手にお花見をしようと思いました
「ワインも食も文化です」という橋本さん。「フランス人には、どのワインにはどういう食べ物を合わせると良いかをたえず考えながら一生懸命育ててきた“ワインと食”の文化があります。日本にも“日本酒と日本の料理”という文化がありました。しかし最近はそういった“文化”が忘れ去られているように思います。みんなで努力して、残していかなければならないですね。」
私たちもワインやお料理を楽しみながら、“文化”について、もう一度ゆっくり考えてみなくてはいけませんね。
今回のインタヴューの後、食事会にご参加の予定があるという橋本さん。「あまりおなかをいっぱいにしないで、食後もワインを楽しまなくっちゃね(笑)」とやさしく微笑んでいらしたのが印象に残っています。今夜はどんなワインを楽しまれるのでしょうか。
プロフィール |
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橋本 昌(はしもとまさる)茨城県知事 ・1945年11月19日 東海村に生まれる。 ・石神小学校、茨城中学校、水戸一高を経て東京大学法学部卒業。 ・1969年自治省入省。福井県文書学事課長、地方課長、財政課長、山梨県総務部長などの第一線を経験。 ・国土庁防災調整課長、自治省消防庁危険物規制課長、消防課長、自治省公営企業第一課長を歴任。 ・1993年9月茨城県知事に当選・就任。 ・1997年9月再選、2001年9月三選 ・(財)茨城県国際交流協会長、(社)茨城県観光協会長、全国港湾知事協議会会長などを兼務。 |
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