皆さん、こんにちは。
8月最後の週末です。まだまだ暑い日は続いておりますが、朝晩の風にほんの少し、秋の気配を感じるようになってきましたね。
8月末といえば、夏休みの宿題に追われながらも、祖父がいとこと私を卯辰山(うたつやま)へ野球をしに連れて行ってくれたことを思い出します。
当時の私は、アニメ『野球狂の詩(うた)』の女性投手、水原勇気(みずはらゆうき)に憧れて、「女の子でも甲子園に行ける!」と本気で信じて白球(はっきゅう)を追いかけていました。そんなおてんばで無邪気だった夏の光景が、今でも鮮やかに蘇(よみがえ)ります。
さて、そんな思い出の卯辰山や、兼六園などの庭園に立つと、「秋の第一歩」が静かに始まっています。
実は、今の時期は「どんぐりの赤ちゃん」が見られるベストシーズンです。
カシワやクヌギの枝先をよく見ると、小さな緑色の実が、あのモジャモジャとした帽子の中にちょこんと収まっています。緑の葉の中で、静かに秋の準備が始まっているのですね。

金沢が生んだ文豪、室生犀星(むろうさいせい)が作詞した小学校の校歌には、「みどり 手をささげ、かしわばは うたうよ」という、なんとも美しい一節があります。

校章もカシワの葉をかたどっていて、かつて広坂の校庭にあった「カシワの名木(めいぼく)」のように、雄々(おお)しく、まっすぐ育ってほしいという願いが込められています。金沢の子供たちのそばにも、昔からカシワの木が優しく寄り添ってきたのですね。
そして、この「カシワ」といえば、金沢の郷土料理「かしわの治部煮(じぶに)」が思い浮かびます。

本来は鴨肉ですが、金沢の家庭では、鶏肉を「かしわ」と呼んで親しんできました。
鶏肉を「かしわ」と呼ぶのは、江戸時代の粋な心が始まりです。
仏教の教えや徳川綱吉の「生類憐みの令」などでお肉を大っぴらに食べることが難しかった時代、馬肉を「さくら」、鹿肉を「もみじ」、猪(しし)肉を「ぼたん」、鶏肉を「かしわ」と呼ぶ隠語がありました。鶏の羽の色が、秋に紅葉したカシワの葉の茶色に似ていることから名付けられました。厳しいルールのなかでも、言葉に美しい「色彩」を重ねて楽しんだ、日本人の遊び心を感じますね。
夏の疲れが出やすいこの時期、私も祖母を思い出してよく作ります。
片栗粉をまぶした鶏肉に、椎茸、にんじん、小松菜、そして「すだれ麩」は欠かせません。とろみのある温かいお出汁にワサビを添えていただくと、疲れた身体が優しく癒されていきます。

今日ご紹介する旬の和チーズも、このカシワの名を冠した特別なものです。
北海道十勝の「チーズ工房NEEDS(ニーズ)」が作る、ハードチーズ。その名も『槲(かしわ)』。牧場周辺に生育する樹齢200年以上の「槲(かしわ)」の名木にちなんで名付けられました。

このチーズにとって、8月末はえも言われぬ「移ろいの旬」です。
原料は、初夏の北海道で、みずみずしい青草をたっぷり食べた牛たちのミルク。それを職人が毎日手作業で磨き、4ヶ月以上熟成させて、ちょうど今、この金沢へ届きました。
カシワの葉は、秋になると美しい琥珀色に染まり、冬を越して春になるまで決して落ちません。かつて加賀藩の武士たちも、その「落ちない」たくましさを縁起物として愛し、屋敷の庭に好んでカシワを植えました。
本日のチーズ『槲(かしわ)』もまさにその通り、熟成を重ねて深い黄金色を帯びています。
口に含むと、初夏の青草の名残である豊かなミルクの風味と、秋を予感させるナッツのような香ばしいコクが、一度に広がります。

合わせるなら、夏の間は冷やしていた日本酒を、常温の「ひや」で。
お米のふくよかな旨味とチーズのコクが溶け合い、極上の余韻に変わります。
また、水出汁(みずだし)の加賀棒茶も、香(かぐわ)しさが相まっておすすめです。
器に盛られた「小さな秋の足音」を、石川の地酒やお茶とともに、どうぞゆっくりとお愉しみください。

【インフォメーション】
ここでお知らせです。
先ほどご紹介した「和チーズ」ですが、国産チーズの魅力を伝える大きなイベントが、10月9日と10日の2日間、東京で開催されます。ぜひチェックしてみてください。

そして、もう一つ、私からのお知らせです。
10月27日(火曜日)から11月8日(日曜日)までの2週間、石川国際交流サロンにて、
第九回「季(とき)にあひたる 和魂洋才のしつらい」作品展を開催いたします。
今回のテーマは「彩(いろどり)」です。
月曜休館、入場は無料です。
暮らしの中のさまざまな「彩り」を表現したしつらいをご用意しています。秋のひととき、ぜひ足をお運びください

季節の変わり目、皆様どうぞお体に気をつけてお過ごしください。


