季にあひたる ~MRO北陸放送~

「ウメガイチ!」の歓声が繋ぐ記憶と、青いサイコロ『ブルーデコース (Bleu des Causses)』の贈り物

皆さん、こんにちは。2025年も残すところあとわずかとなりました。金沢の街は雪吊りが美しく整い、凛とした空気の中に、新しい年を待つ静かな高揚感が漂っています。

お正月の金沢。祖父と祖母の家に子供たちが集まると、まずは居住まいを正しての新年のご挨拶から始まります。子供心にも、背筋が伸びるような、緊張感のある時間でした。

そして、その後に待っているのが、家族みんなが夢中になる「旗源平(はたげんぺい)」!源氏の白旗と平家の赤旗に分かれ、二つのサイコロを振って旗を奪い合う金沢独自の遊びです。サイコロが「コロン、コロン」と跳ねるたびに、部屋の温度が一段上がるような熱気に包まれます。

独特の呼び名とともに一喜一憂する、その出目をご紹介すると……

• 「ウメガイチ!」(1と5): 前田家の家紋「梅鉢」にちなんだ最上の目。一番大きな「まとい」や中旗を奪い、もう一度振れる。
• 「ニロクいっぽん!」(2・6): 着実に小旗を積み上げる。
• 「にゃあにゃ二本(2・2)」「サザナミ二本(3・3)」「シュウジュ二本(4・4)」: ゾロ目が出ると小旗を2本、さらにもう一度振れます。
• 「ニサマノカンカンド(2・3)」「ゴッシリハナカメ(5・4)」: 旗はもらえず次へ交代。
• 「シノニ(4・2)」: 中旗を相手に渡さなくてはならない、一番の厄介もの。

負けて泣きべそをかく一番下の従兄弟。それを見守るお姉さんは、いつも冷静に微笑んでいました。一人っ子の私は、お姉さんに憧れて「冷静よ」と平静を装いながらも、心の中では負けるのが悔しくてたまらなかった……。

大勢で囲むからこそ生まれるあの熱狂は、何にも代えがたい「冬の宝物」です。

勝負が終われば、祖父が一人ひとりに用意してくれた「金沢蒔絵の盃」での乾杯。祖母の手作りの御節やお雑煮をいただきながら、新しい時を迎えられる喜びに感謝する。祖父母が大切にした、そんなしきたりに、今年は私らしい遊び心を添えています。

今年の主役は、熟成の巨匠エルベ・モンス氏が手掛けた「ブルー・デ・コース (Bleu des Causses)」です。

フランスの有名な「ロックフォール」の製法を受け継ぎながら、羊乳ではなく牛乳を使って石灰岩の自然洞窟で熟成される、歴史あるAOPチーズ。これを小さなキューブ状にカットしてみると、白い生地に走る青カビの筋が、まるで大理石でできた「幸せのサイコロ」のように見えてくるから不思議です。
牛乳由来の優しいミルク感とクリーミーさがありながら、熟成による力強く上品な味わい。そして、口の中でとろけるような食感。

この「青いサイコロ」を朱塗りや九谷焼の器に盛り付けると、伝統の色彩にチーズの「青」が驚くほどモダンに映えます。

大人になった今は、あの蒔絵の盃に石川の力強い地酒を注ぎ、ブルー・デ・コースを一口。芳醇なコクと地酒の旨みが溶け合う時間は、まさに「ウメガイチ」な美味しさです。

祖父と祖母が大切にしていた、季節を愛で、人を想うしきたり。

今年の年末年始は、皆さんも「サイコロに見立てたチーズ」を囲みながら、かつて家族と過ごした賑やかな光景を思い出してみませんか。

皆様にとって、新しい年が「ウメガイチ!」な、最高に輝く一年になりますように。

こうしたチーズの奥深い世界や、季節のしつらいを学ぶレッスンを毎月末に開催しております。
この秋からは、ご要望の多かった「奇数月の土曜午後クラス」も新設いたしました。
冬の食卓を彩る知恵を、一緒に学んでみませんか?

そして、今年好評だったフランスチーズシュヴァリエの米田シェフによる「チーズフィンガーフード教室」を、来年2月11日(水・祝)に再び開催する予定です。
会場は金沢駅から徒歩5分の「ぶどうの森 タパス エ バール」です。
チーズを用いたフィンガーフードと美味しいワインを楽しみながら、ご一緒に学びましょう。
詳細・申込はhttps://www.cheese-professional.com/article/seminarevent/detail.php?KIJI_ID=2373

ぜひ、スケジュール帳にメモしていただけると幸いです。

早川由紀 金沢市出身。「和魂洋才」を掲げ「WAKONN」を設立。移ろいゆく季節、鮮やかに姿を変える風景を楽しみ、折々の行事を心を込めてこなしていた祖母の暮らしを受け継ぎ、しつらいの魅力を伝えるイベントやセミナーを積極的に展開。